はじめに

壁AdventCalender 12月8日の記事です。

いきなり私事ですが、つい最近どうにか博士論文の予備審査をパスしました。 私の研究テーマはMaterials Informatics(MI)という分野に位置づけられ、これはざっくり言えば情報処理技術(主に機械学習)を使って材料開発を効率化しましょうという分野です。MIは材料科学と機械学習にまたがる研究領域であるので、いわゆる学際研究というやつです。

この記事では「研究分野の壁」をテーマに、いささか僭越ではありますが、どうやって分野の壁を超えて学際研究をするか?という点について、自分の経験を振り返りながら自戒も兼ねて私見を述べてみたいと思います。

以下では、あるドメインの専門家が異なるドメインに関連した学際研究をしたいという状況を考えます。(私の場合、自分の専門は材料科学、相手ドメインは機械学習です。)

創造は一人の頭の中で起きる

結論から言えば、学際研究をスタートし成功に導くためには**「自分が相手ドメインの専門家になるぐらいの勢いで勉強して新たな専門性を身につけ、自分で主体的に頑張るしかない」**というのが現時点の僕の見解です。間違っても、自分の領域に別ドメインの専門家を連れてきて主体的に動いてもらうことを期待してはいけません。そんな都合の良い話は無い上に、その場合自分の存在価値は無くなってしまうので、あくまで主体的にやるのは自分という覚悟が必要です(c.f. 言い出しっぺの法則)。

学際研究で最初かつ最大のハードルは、解くべき問題の同定およびその解法を考えるプロセスですが、ここでは「相手ドメインの技術で何が出来て何が出来ないのかわからないため、そもそも問題設定できない」という問題が生じます。手段と目的の逆転を防ぐためにも、ここは非常に重要です。 この問題にお手軽な解決法は無く、自分が地道に勉強や試行錯誤して答えを見出すしかないのですが、これこそが自分で頑張るしかないという上述の主張の背景です。

「自分の問題解決に役立つかわからないのに、(例えば)機械学習を学ぶのはしんどい」とか言いたくなりますが、ここをグッと堪えて、役立つかわからないとしても色々勉強してみる、その上でたまたまうまく行ったものが芽吹くというのが学際研究の本質じゃないかなと思っています。別な言い方をすれば、狙って学際研究をするのは困難であるとも言え、異分野の専門家を同じ部屋に集めて「お前ら融合しろ!」と言ったとしてもそのプロジェクトは虚無になりがちな気がしています(主観です)。

ちなみに私の場合は、磁性材料系の研究室に所属してゴリゴリに材料を作って測る研究をしていたのですが、B4終わりぐらいから「データサイエンス?ってやつがナウいらしい」とHastieの『統計的学習の基礎』(The Elements of Statistical Learning)を読みながら機械学習の基礎や関連ソフトウェアスタックを勉強していました。拙いですがやりたいことのプロトタイプを作って「こんな感じの研究をやりたい!」と騒いでいたところ現在の教員に声をかけていただき、M1から本格的にMIの研究を始めました。幸いなことにM2後半にJSTの某情報系プロジェクトに採択されたことでメンタリングと研究費支援を受けることができ、同時期にDC1も通ったので気を良くして進学しました。D1の春に本郷の某AI系研究所でインターンさせていただく機会に恵まれ、そのまま共同研究で居座って今に至るという感じです。どうしても実現したいアイディアがあるならば、こういったハングリーさも時には必要かなと思います・・・。ラボメンや共同研究者の皆様にはいつも大変お世話になっています。皆様ありがとうございます。

あとそもそも自分の専門性を深めることも大切なので、学際研究に興味ある大学院生は、まずは自分の専門性を確立することに注力すると良いと思います。中途半端になると自分のアイデンティティで悩むことになります(経験済み。つらいです)。

また、次のトピックとも関連しますが、別な視点からの解釈として、自分で手を動かすことは相手ドメインの専門家とのコラボの上でも最低限の礼儀として必要だと考えます。仮に自分が学際研究を持ちかけられる立場だとして、実際に手を動かして努力している様子がわかればぜひ一緒にやりたいと思いますが、そうでない場合、本当にやる気があるのだろうかなど考えてしまいます。。

ここまでをまとめると、学際研究に必要なのは「自分で頑張る覚悟と努力」ということになります。

どう異分野の専門家とコラボするか?

https://medium.com/sinicx-ja/オムロン-サイニックエックスの1日-22cb13e3e3bd より、実験中のひとコマ

https://medium.com/sinicx-ja/オムロン-サイニックエックスの1日-22cb13e3e3bd より、実験中のひとコマ

最初の問題設定のハードルを突破し、無事に学際的な研究が走り始めたとします。そうなると異分野の専門家と議論しながら研究を進めていくことになり、ここから先は普通の共同研究と同様です。とはいえ分野が異なれば文化も異なるので、異文化交流としての工夫は多少必要です。

何も特別なことはないのですが、私が気にしていることを以下に列挙します。